「すき」


この一言が、あたしの武器なんだ。
すこしだけ目を潤ませて、上目遣いで、相手のズボンとブラウスの境目辺りをぎゅっと掴んだら完璧。誰だってあたしを好きになる。


「好き」
「えっと、俺さ……」
「知ってる。笹井さんと付き合ってるの。でもあたしね、好き」


彼の合服のカーディガンをぎゅっと掴んで、目を少し潤ませてそっと彼の顔を見た。
困惑。そんなカオしてる。当たり前。あたしはそんなのわかりきってる。知ってるよ、迷惑なのくらい。友達なんかイラナイ。居なくなってもいい。汚いとか言われても全然かまわない。


「……お願い。少しだけでもいい。笹井さんを好きな気持ちの半分でも、10分の1でも100分の1でも10億分の1でもいいから……」
「青木さん」


全て計算済みなんだ。
こうして抱き締めてくれるのも、ぜんぶ。


「おねがい……」
「……わかった。わかったから、泣かんといて」


泣いてなんかない。泣いた「フリ」。あたしは心の中で勝ちを確信して、あたしを抱きしめる彼の手をそっと振り解いた。右手に左手を、左手に右手を優しく重ねて、ゆっくり。


「……ありがとう」
「うん……」


困ればいい。
悩めばいい。
そしたら答えは出るでしょう?愛すべきオンナの名前がわかるでしょう?


あたしのやり方。男を手に入れる方法。
あたしが相手を好きになるのは、相手があたしを好きになってからでも遅くなんてない。あたしを本当に愛してくれる人でないと、あたしが本当に泣かなあかんくなる日が来てしまうから。


「聡美には、内緒な……?」
「わかってる。笹井さん敵にまわしたら怖いもん」


恋愛なんてただのゲーム。
あたしを強くするアイテムと必殺技があったら、それで。
あたしのやり方がお嫌いなら、どうぞあたしを疎んでください。
あたしを好きになった暁には、そんな貴方を見て微笑んでさしあげましょう。


その笑みの意味は、あたししか知らないけど。





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written by蒼(http://kitten.chu.jp